教養卒論で優秀賞を取ってみた
「教養卒論」って何?
東工大では、学士課程3年目秋に履修する必修科目「教養卒論」において、リベラルアーツ教育の集大成として5000~10000字の論文を執筆します。東工大のHPには「学士課程教養教育の集大成」とか「志」とか、なんか意識高い感じの言葉が並んでいますが、学生からすれば5000~10000字という長文を書かないと卒業できないということで正直なところしんどいな~と思うのも無理はないと思います。
また、教養卒論のテーマ設定は「自分の専門分野やこれまで学修してきた教養や様々な経験を題材にして、その社会的な意味や影響といった主題を自ら設定し探究する論文」という感じのかなり抽象的なものになっており、実際書く内容の自由度は非常に高いので逆にテーマ設定に迷うという人も多いでしょう。
そこで今回は、これから教養卒論を執筆する予定の東工大生に向けて、教養卒論で優秀賞を受賞した筆者がどのようにテーマを選定し、執筆したのかを書いていこうと思います(実際は部内で「優秀賞取ったぜ、イェ~イ」って言ったら「じゃあ記事にしろ」って言われただけ)。最後に論文の全文も掲載しています。
ちなみに、「優秀賞」ってなんかすごそうですが21あるクラスそれぞれから1~2名、合計で40名程度が選ばれるのでそこまで狭き門ではないです。やっぱり苦労して書いた文章が評価されると嬉しいので、これから教養卒論を執筆する学生の皆さんも優秀賞を狙ってみてはいかがでしょうか。
テーマ選定:もはや「自由の刑」
教養卒論を執筆するにあたってまず初めに当たる壁、それはテーマ選定です。先ほども述べましたが、教養卒論のテーマとして与えられるのは
自分の専門分野やこれまで学修してきた教養や様々な経験を題材にして、
その社会的な意味や影響といった主題を自ら設定し探究する論文
このわけわからん一文だけです。ここから具体的に何について書くのかを考えるのは至難の業。実際、筆者もかなり悩みました。
過去の論文を読んでみる
優秀論文集(東工大HP)より引用
そんなときはまず過去の優秀論文を読んでみましょう。過去の優秀論文はリベラルアーツ図書館(大岡山キャンパス 西9号館E棟1階114号室)で読むことができますし、過去2年分くらいの優秀論文は発表動画や論文を見ることのできるリンクが講義で示されると思うので、そこから教養卒論の全体像をつかんでみると何か思いつくかもしれません…
と、思うじゃん?
これが優秀論文を読むと、その内容の多種多様さに圧倒されて余計に何を書いたらいいのかわからなくなるんですよね。それでもやはり過去の論文を読むことである程度雰囲気や全体像をつかむことができますし、真似できる点も多くあると思うのでまず初めに過去の論文を読むのはいい選択だと思います。
筆者は過去の優秀論文や同じクラスの人のテーマを見ていて、優秀賞を取るような教養卒論は次のような3つに分類される場合が多いと思いました。
- ゲームやアニメ、音楽などの娯楽コンテンツを、
オタク特有の卓越した知識量で分析する - 自身の専門分野や大学での学びに関連した事象について、普段とは違う視点で分析する
- コミュニケーションや感情といった抽象度が高いテーマについて、理論的思考力+文章力で理路整然と分析する
まあ、だからといってテーマが決まったわけじゃないんですが…
最後は「書きたい」と思えるテーマを
なんか図らずともテーマがなかなか決まらない様を長文で再現してしまいましたが、最終的に筆者がテーマを決めるにあたって最も重視したことは
書きたい、と思えること
でした。いくら「これなら優秀賞取れそう」とか「文字数稼げそう」とか思っても積極的に「書きたい」と思えなければ5000文字以上の長文を書くのは苦痛ですから。そこで、筆者は自分の趣味である80年代アイドル歌謡を題材とすることに。
そして、ここから更にテーマを具体化していきます。ここで筆者は、単に80年代アイドル歌謡のみについて取り上げたとしても私の知識量では他の人を上回るような論文にはならないと考え、じゃあどうすれば他の人を上回れるか、つまり自分の強みは何なのかを考えました。ウザいビジネス用語で言えば「コアコンピテンシー」ですね!!(ちょっと違う気もするが)
で、最終的に「最近は割と2000年代のアイドル歌謡も聞いているので広範な年代に渡るアイドル歌謡の分析であれば十分勝負できるのではないか」という結論に至りました。圧倒的な知識量を誇る「昭和歌謡オタ」や「(最近の)アイドルオタ」はたくさんいますが、その両方に興味がある人って意外と少ないので。
というわけで、筆者の教養卒論のタイトルは「アイドル歌謡の時代変化を分析する」ということで以下のように決定しました。
アイドル歌謡 半世紀の変化
実際、自身の趣味に関連する内容をテーマとする人は多いので、まずは趣味を思い浮かべてみるのはいいかもしれません。ただ、「東工大」という性質からかサブカルに関する論文が多くなる傾向(特にゲームが多い)があるので優秀賞を狙う場合は避けたほうが競争が少なくていいかもしれません。
執筆に取り掛かる
無事テーマが決まったので、次は執筆に取り掛かります。
見えないものを「見える化」する
まずはテーマをより具体化していきます。筆者のように「音楽」のような目で見えないものについて文章で論じる場合、いかにして可視化するかが重要になってきます。また、多元的な分析を行ったほうが面白い文章ができそうです(あと文字数も稼げる)。そこで、筆者は以下のように大きく2つに分けて分析を行うことにしました。
- 音声信号波形の分析
- 歌詞や歌唱映像の分析
音声信号波形の分析では、例えば次のように音声を「波形」という形で可視化することで時代を追うごとに音圧が大きくなることを視覚的に説明できるようにしました。こうしてみるとAKBの曲って本当に音圧マシマシだな…
また、歌詞や歌唱映像の分析ではなんか真面目な論文とは思えないような言葉・画像が並ぶことに…
こんな感じで視覚情報を使えば、「何となく最近の曲って音圧高いな~」とか「歌詞の内容に偏りがあるような」といった感覚的なことも文章で説明できます。
また、この2つの項にわけることで「波形」という理系っぽい分析と「歌詞の内容」や「見た目」といった文系っぽい分析の両方を行うことができ、「文系」と「理系」の融合が大好きな東工大リベラルアーツ教育院の評価も爆上がりですね!(知らんけど)
「オタクの力」を発揮しつつ「一人語り」にならない
そして、最後はオタクの力で論文の内容を深いものにしていきましょう。
例えば、筆者の場合は「ストリーミングが当たり前世代」でありながらやたらとCDを持っているという特性を生かして付属の歌詞カードまで分析対象にしました。
それ以外にもしれっとある1人の歌手の曲を162曲も所有していて、うち83曲はなぜか歌詞がデータ化されていたり…
なぜか自分自身での先行研究があったりと、ちょいちょい「オタク感」が出ている気がします。
オタクというのは基本話し始めたら止まらないですから、オタクの情報量を使えば論文の文字数を稼ぐことは容易です。しかし、同時に 「オタクの一人語り」にならないように気を付ける必要があります。例えば、筆者の場合は次のような点に注意し、対策を行いました。
自分の好みによる偏りが生じないようにする
→分析対象の曲を一般的に人気がある(あった)ものの中から選ぶようにした。
→音楽チャートや紅白歌合戦の過去データなどを利用した。
読者は80年代アイドルなんて知らない可能性が高い
→画像や脚注を利用して読者が理解しやすいよう配慮した。
あと、文章を書く際の一般的な注意点として次のようなことも意識しました。
- 文頭と文末の整合性に注意する
- →文章が長くなってくるとついつい構造が崩れがちなので、「なぜならば」で始まったのに文末は「~であることが分かる。」みたいなことがないようにする。
- 書いた文章は最低でも一晩は寝かせる
- →翌日になって読み直してみると 「何だこれ?」 ってなる場合が多々あるので鉄則。
そんなこんなで書き進めること約30時間、無事1万文字を突破しました。決して楽ではありませんでしたが、自分の趣味のことなので割と楽しかったです。
ちなみに、このページの文字数は約3000文字なので、もうちょっと頑張れば 「教養卒論の書き方」っていう教養卒論が完成します。実際に「教養卒論についての教養卒論」を書いている人もちらほらいるのでテーマの一つとしてはアリです。
最後に、筆者の論文を読みたいという方はこちらから。正直なところ、結論がとっ散らかっているのが今一つなんですが…
<論文リンク>
優秀賞を取った教養卒論を実際に読んでみる